建司の書斎

「キリスト者の希望」、「愛を学ぶ」等の著者、故相澤建司の遺稿説教原稿・聖書研究など。

囚われ人の希望(5) 大自然の慰め

2000講壇6(2000/12/3~2001/6/17)

囚われ人の希望(5) 大自然の慰め
 視点を変えると、イルトウィシ河岸でのドストエフスキーの体験は大自然が囚われ人の苦しみを慰める体験と呼ぶことができる。フランクルアウシュヴィッツ強制収容所における夕景について語っている。
 「われわれが死んだように疲れ、スープ用スプーンを手にもったままバラックの土間に横たわっていた時、 一人の仲間が飛び込んできて、強度の疲労と寒さにもかかわらず、日没の光景を見逃させまいと、急いで外の点呼場まで連れ出しにきた。それからわれわれは外で、西方の暗く燃え上がる雲を眺め、また幻想的な形と青銅色をしたさまざに変化する雲を見た。その下には対照的に収容所の荒涼とした灰色のバラックと泥だらけの点呼場があり、その水溜りにはまだ燃える空が映っていた。数分の感動の沈黙ののちに、だれかが他の者にたずねる声が聞こえた『世界はどうしてこんなに美しいんだろう』と」。
 夕方の光景の目をみはる美しさに立ちつくすという体験は、私たちにも存在するが、しかしその体験はすぐにも忘却の彼方に消えてしまう。これとは違って、囚われ人においては、美しい光景への感動は今ある苦境を一時的にせよ、押しのけそれから離脱させ、かつたとえ地上の世界、強制収容所は地獄であろうとも、その天空には未だに美が存在するとすれば、それだけでもこの人生は生きるに値する、と彼らは考えたのだ。
 夕焼け雲のこの世ならぬ美しさに打たれた、ドイツの女性革命家ローザ・ルクセンブルク(一八七〇~一九一九)もこうしるした
 「このような色、このような形がある以上、人生こそ美しく、また生きるに十分値するものではないか」(「獄中からの手紙」一九一七、秋元寿恵夫訳)。